【−1】猫の目

猫の目に霊が映っていたというエピソードも、二階のベランダに男の首だけがフラフラと浮かんでいたというエピソードも、どちらも多くの類話があり、その2つが重なったとしても取りたてて新鮮味がないところである。
怪異のレベルとしては、ごくあっさりとした内容であると言える。
ただしこの作品の問題点は、体験者があやかしの存在に気付いてからの一連の流れの部分が非常にもたついているところである。
例えば“何だこの失礼な奴は、人の部屋の中をジロジロ眺めて……そう思い、振り返ろうとした直後、得体の知れない違和感に硬直した。(あれ?)”という気付きの肝と言って良い部分であるが、おそらくこの感覚は実際の反応でいえば1秒も掛からないものである。
ところが多くの読者が一瞬と判断した反応にもかかわらず、そこに費やされた言葉の多さのためにまどろっこしさを感じてしまうのである。
他にも、最後の2つのパラグラフに書かれてある説明描写ももっと言葉を削って畳みかけるようにしないと、読むのに時間が掛かる割には大した内容が書かれておらず、しっくりこないのである。
言葉を費やして状況を描写説明しようと書き手が一生懸命になっているのは理解できるが、文字を追いかけるスピードと脳内で像を結ぶスピードとの間にタイムラグが出来てしまうと、場面を想像しながら読む作業はかなり苦痛を伴うものになってしまう(抽象性の高い論説調の文章の場合は、この講評のようにかなり言を尽くしたぐらいでちょうど誤解を招く表現を減らすことが出来て良いのであるが、一瞬の情景を切り取る描写文の場合は、言葉数が多すぎると却ってイメージを阻害するケースが多いと言えるだろう)。
前半部分ぐらいの記述説明ぐらいで程良く理解できると思うので、あやかしの描写などにこだわりすぎて却って流れを澱ませない方が正解だろう。
適度な粗さの方がむしろ読者のイメージが働いてスムーズに読めるようになるということで。
厳しいところであるが、肝の部分での瑕疵は大きいということでマイナス評価とさせていただいた。