【−1】トンネルの中を

阪神大震災から既に10年以上経ったわけだが、その当時の怪異譚も封印を解かれるように出てきている。
この話もそれの1つであり、それなりの希少性というものは持っていると感じる。
しかし“あったること”を描く怪談という作品としてみた場合、非常に弱さを感じざるを得ない。
原因は言うまでもなく、淡々としすぎて起伏のない語り口に尽きるだろう。
ことさらにオーバーアクション的な表記をして劇的するのは難しい内容であり、また多くの人が亡くなった災害であるのであまり派手にするのもどうかと思うのであるが、怪異の肝となる説明がかなり早い段階から提示されてしまって、それに関する生きている人間側のありきたりの対応が後に続いているために、何となく話がダラダラと流れてしまったという印象が強い。
厳しい言い方をすれば、書き手が怪談という作品として仕上げきっていないとも取れるような、工夫も何もなくあったるままの話を書き綴っただけにしか見えないのである(この書き方を一つの味と見ることも可能であるが、それにしてもあまりにもあっさりとしすぎていると言える)。
結局事実関係だけが書かれているだけの話で、読ませる工夫がないということで評価を下げさせていただいた。