【+2】鍋いっぱいあったのに

体験者の“あったること”を丁寧に書いているので、それなりに読ませる内容の作品であったと思う。
特に希少なのは、瞬間移動(おそらくは時間的な経過の欠落)をしたと体験者が思ってしまった現象である。
残念ながら時間的な経過が書かれていないために本当に瞬間移動したのかわからないが、自宅内でおこなった怪異としては相当珍しいものであり、怪異体験としては十分読者を納得させるだけの内容になっているだろう。
またそれだけ奇怪な体験と同時に起こったのが、味噌汁が跡形もなくなくなっていたという実に珍妙な現象であり、そのギャップが実におかしみがあると言える(“ポンポン”と肩を叩くオノマトペも全体の雰囲気に合わせて意図的に書いてあったとすれば、なかなか巧い書き手であると言っても良いだろう)
“化かされたのではないか”という評が多くあったが、まさにそのように推測するに値する怪異のギャップであり、そのようなストレートな言葉を用いずに印象を植えつけた書き手のテクニックは心憎いばかりである。
小粒の怪異の中でも、きらりと光るディテールの面白さが際立っている話であると言えるだろう。
評点は若干甘めだが、それだけ良い味を出しているという印象である。