【+1】纏うモノ

見えるがなにも出来ない人、見えないが集めてしまう人、そして見えないが弾いてしまう人という、微妙に三すくみ状態に近いバランスが絶妙な作品である。
実際は妻の妹が弾くことが出来るのか明確ではないのだが、敢えてそれを示唆する内容を書くことによって、不思議な話の締めくくりを巧く演出していると言えるだろう。
本来であればこういう憶測で書くことは憚られるのであるが、怪異そのものが書かれている場面では“あったること”だけで展開されており、その憶測が怪異と絡むことなく後日談のエピソードのためにだけ使われているので、胡散臭いものにならずに済んだところが良かった(後日談についてもある意味非常に微笑ましい内容になっているだけに好感を持って受け入れられることに成功していると言えるだろう)。
怪異については、あやかしの描写が非常に丁寧で、靄が明確に意思を持っている禍々しい存在であることが的確に分かる書き方になっている。
ただし夫婦の行動については少々紋切り型で、靄の描写に比べると平板という印象が強かった(ただし怪異の主役は当然その靄であるあやかしであるのだから、減点の対象とする必要はないところである)。
ややもすると怪異そのものが定番物と言えるので平凡な作りに終わってしまうところを、あやかしの描写や少々おかしみのある締めくくりでカバーしたと言えるのではないだろうか。
小粒なりの良い感じの作品に仕上がっていると思う。