【+2】手招く者

人間一人が消失するというとんでもなく恐ろしい怪異譚なのであるが、何かフィルターみたいなものが掛かっているような印象を持った。
消失の場面はディテールまで克明に書けており、かなり昔の記憶でありながら非常にリアルな描写に徹しているように感じるし、また強烈なインパクトを読者に与えるだけの力のこもった書き方になっていると評価できる。
ところが、その部分以外のトピックについて言うと、何となく曖昧ですっきりとしない部分が多いように感じるのである。
例えば、15年前の行方不明事件の顛末と言えるものがほとんど書かれておらず、事件のそのものについて何となく他人事のような印象を受ける。
また同じことが、体験者自身の行方不明の事実についても言える。
怪異の部分の強烈なリアリティーと比べると、あまりにも素っ気ない扱いであり、悪く言うと“作り物”ではないかという感想すら出てくるような次元なのである。
書き手の意図としては、怪異の部分を徹底してクローズアップさせる代わりにその他のトピックの詳細を削ることで、長さのバランスを取ろうとしたとも推測するのであるが、怪異と密接に関連すると考えられる部分があっさりと流されることには違和感を感じざるを得ないところである。
この部分でリアリティーを印象付けるディテールが書き込まれていれば、相当の水準の作品として評価できただろう。
ただ瑕疵はあるものの、怪異そのものの希少性と、その部分の描写力を鑑みれば、当然プラス評価とするべき作品ということになる。
ある意味大ネタに準ずる作品だけに、あまり長さを気にせずに書いた方が正解だったように思う。