【−2】トントーン

怪談の書き方の手法の一つとして“全ての物理的条件を提示して、それを一気に否定する事柄を書く”パターンがある。
要するに、様々な検証を施して読者に対して理屈を並べておいて、最後の場面でその前提条件を覆すような事実をぼそりと提示して締め括るという形である。
この作品もそのパターンを踏襲するものであるが、全然締まりがない。
一番の原因は、スーパーボールに関する情報が極端に少ないため、最後の決め打ちが出されても、なおそれを否定できる条件があるのではないかと読者に思わせてしまっているからである。
勿論、猫が鞠をつくようにボールを扱うことは不可能である。
しかしボールが最初にどこにあって、どれだけの間弾み続けているのかが書かれていないので、物理的現象としての“可能性”を最後で完全否定できるだけの証拠が揃っていないのである。
そういう状況で“トントーンって。猫は転がせるけど、はずませて遊ぶなんて出来ないよ”と決めゼリフをいわれても、いくらでも“可能性”の逃げ道がある。
結局“火葬場が近い”などという、あやふやな決着点を付加させてお茶を濁して終わってしまったとしか言いようがない。
怪異とは我々の常識では捉えきれない内容そのものであるが故に、“絶対の起こりえない”状況を確実に提示しなければ、読者はいくらでも常識の範疇で事象を収めてしまうものなのである。
この作品で言えば、書き手が“スーパーボールが夜中に絶対に弾むような状況ではない”ことを明確に提示しなければ、怪異は成立しないということである。
この怪異の条件部分で書き手が明らかな失策を犯しているため、評点はマイナスとさせていただいた。