【+1】持病の発作

いわゆる“憑依ネタ”あるいは“因果物”と呼ばれる種類のネタであり、余程のことがない限り低い評価はされないジャンルのものであるが、残念ながら結果的には低くならざるを得ないことになってしまった。
まず全体の構成が、怪異一直線の内容になっていない。
もしこの話がかなりの時間の経過を要する内容であれば、体験者の感情を前面に押し出しても、読者が感情移入しやすいために無難に締め括ることが出来たかもしれない。
だがこれだけ短い流れの中では、体験者の感情、特に恋愛感情を伴った切ない気持ちを書かれても、グッとくることはほとんどなく、下手をすると別れの言い訳としか映らない。
しかも、このような感情を後日談として長々と語られると、本質である怪異の方もインパクトが薄まってしまったように感じる。
因果ネタにおいて、因果の怪異に巻き込まれた体験者の感情を書くことは決してタブーではないが、それは長い体験談の果てに行き着く感情の共有感があってこそ成立するものであるし、あくまで怪異の本質に付随する内容である。
それがこの作品のように全面的に出てきてしまうと、余計で筋違いな印象しか出てこない。
そして肝のクライマックスに当たる“わし、へびじゃで・・おまえ・・・しぬぞ”の表記が、何とも微妙なインパクトになってしまっている。
セリフそのものを変えることは無理ではあるが、ひらがな表記(おそらく“老婆の声”なのでそのように変換したのだと推察するが)はあまりにも間が抜けてしまった印象である。
ベストではないが
「ワシ、蛇ジャデ…」彼氏は嬉しそうに笑った。「オマエ……死ヌゾ」
という感じで間を持たせた方が良かったかもしれない(あくまで個人的な感想であるし、もっと良い書き方があるかもしれなしれない)。
何の衒いもなくストレートに“あったること”を書いた方が凄味のある内容になっていたと思うし、その方がむしろ作品としては出来の良いものに仕上がっていただろう。
非常に惜しい気がする。