【0】雨音

体験者の語りの部分が長くてまどろっこしい、怪異の肝部分に至るまでの説明が冗長、怪異とは直接関係のない表記が多すぎる。
とにかく無駄に長いという印象ばかりが目立ってしまった。
ただ、書き手が何とか怪異を際立たせようと努力している点は十分理解できるし、実際、雨音によってあやかしの存在に気付く場面などはリアリティーを獲得しようと頑張っていると言えるだろう。
しかしながら、体験者の恐怖感を強調しようとするあまり、逆に怪異そのもののインパクトを薄める結果となってしまった感が強い。
最後に目撃してしまったあやかしの容姿が強烈であり、これを活かす方向で文章を組み立てた方が正解だったように思う。
具体的には、体験者の感情の揺れを極力削って“あったること”だけで構成し、強烈な容姿がいきなりズドンと読者に提示されるような書き方をすれば良かったのではないだろうか。
一言でいうならば、あやかしのインパクト以上の体験者の心理描写が構築されていて、あやかしがかすんでしまったという感である。
完成度はさほど高いとは言い難いが、書き手の真摯さというものを感じるので、少々甘めの評価とさせていただいた。