【+2】山男の歌

体験者の心理描写が恐怖感を生み出すことを如実に示した好作品である。
怪異自体は“山の怪談”としては特に目立つような内容ではないし、むしろ平凡な話の部類に入るだろう。
ところが、刻々と変化する体験者の心理が手に取るように分かるために、展開ごとに緊迫を強いられることとなり、何とも言えない怪異譚になっている。
ただ単調に繰り返される歌のフレーズに対する気持ちの変化で、その怪異のあやしさ、もの悲しさなどさまざまな印象を作り出すことに成功しているからこそ、非常にボリューム感のある作品に仕上がっていると言えるだろう。
怪異の解釈についても、体験者の心理が明確である故に説得力があり、取って付けた思いつきという印象が皆無であるところが非常に良い。
特に歌の主があやかしであることに気付くところから恐怖の対象に変わる流れは、秀逸とまではいかないが、読み手をグッと引きつける力があると思う。
ただ残念なのは、あまりにも典型的な怪談話で終わってしまったところである。
さすがにこれだけはどうしようもないことなのであるが、何かハッとさせるようなディテールなりが提示されていたら、それなりの佳作となっていたであろう。
おそらく“あったること”だけを書き連ねていたら全く評価もされない内容であっただけに、総合的に書き手の力量に負うところが大きい作品であると言える。