【+4】帰りたい

非常に凄味のある怪談話である。
怪異のシチュエーションが都市伝説の定番“ダルマ女”に酷似しているのであるが、ディテールの記述が多いために信憑性を失うようなことがなく、却ってその都市伝説の源流ではないかとうがった見方すら出来るほどである。
そして怪異そのものも人面疽と呪術が融合された非常に希少な内容であり、起こった場所が某所であるだけに妙な説得力すら漂う感じがする。
ある意味、読者によっては荒唐無稽、あるいは創作臭いという感想を持つかもしれないほどの内容である。
ただこの書き手のセンスの良さは、後日談を付けることで一気にストーリーをクールダウンさせているところである。
体験者が逃げるようにしてその場を離れたところで話を終わらせることも可能ではあるが、それだけでは全体の印象が非現実的であると判断したのであろう(起こった場所が外国の暗黒街という状況からして、現実離れした話と捉えられる危険性があったわけである)。
そこで体験者が実際に教えられた場所を訪ねるという些細なエピローグを加えることで、日常的な現実味のある印象を植えつけることに成功していると言える。
しかも、その場所には既に家族の痕跡すら残されていなかったという結末は、それまでの劇的すぎるほどの内容と対照的に、何と言えない荒涼感を生み出している。
このくだりがあるからこそ、作品のリアリティーが維持できたといっても過言ではないかもしれない。
ただ、あまりにも謎の部分が多すぎるために怪異そのものに拡張性(伝染性)がなく、いわゆる“大ネタ”にまで至らないということで最上クラスの評点まではいかなかった。
怪異の本質を掴んだ、そして非常に完成度の高い作品であることは言うまでもないところであるが。