【0】えびす様?

メインとなっている怪異については、民俗学的解釈も含めて、非常に興味深い内容であると感じた。
特異な漂着物は、水死体ですら“えびす様”として丁重に取り扱う民間信仰があり、その伝統に則って不思議な形の流木を拾ったのであろう。
ただそれが巨大な蜘蛛のあやかしと変化して体験者の前に姿を現したのは実に希少な怪異であると思うし、単なる民俗学的見地では測れないもっと深い意味がそこに横たわっているようにも感じる。
流木そのものの怪異ではなく、えびす神の神意というものを感じざるを得ないところである。
また文調がこのような伝承系の怪談に適した柔らかさを持っており、なかなか良い印象であったと思う。
だが、最後の一文で怪談としての価値はほぼ崩壊ということになってしまっている。
以前から指摘しているように、メインの怪異以外の存在を同じ作品中で示唆することは、怪異の価値を大幅に減じさせるしか効果がない御法度である。
しかもここで出されたのが、メインの大蜘蛛よりも興味が湧く大首だから、どうしようもない。
根こそぎ怪異への興味を持っていかれた感じである。
本来であれば十分プラス評価できる作品なのであるが、この致命的な一文のために評点としては可もなく不可もなくというところにさせていただいた(ただし希少な怪異であるので、その余計な一文を削って“作品”としては立ち行かせたい思いである)。