【+1】池

非常に臨場感のある展開であり、読み応えのある作品という印象を持った。
ただし怪談としては問題も幾分含んでいるという印象もあった。
まず“夢オチ”ネタであるという点は、やはり説得力の点でどうしても見劣りする。
最初に池に向かって無意識に入っていったという客観的事実から話を進めているので顕著な違和感を感じなかったが、可能性として“夢遊病”のような現象が起こったのではないかという疑念を残してしまっているのも事実である。
特に体験者自身が当時非常に強いストレスを感じていたことが示唆されているために、精神的な問題が引き起こしたのではないかという邪推も可能なのである。
そしてその示唆されているストレスの原因が明確に書かれていないために、さらに怪異の起こった原因が果たして何だったのかというところで引っ掛かりが生じてしまっている。
具体的に言えば、体験者を池に引きずり込もうとしたのは、池にまつわる存在なのか、あるいは体験者の身の回りにあるものが引き金なのかが判然としないのである。
そのために、本当に怪異が引き起こした現象なのかどうかの根本的な部分で釈然としないものを残してしまったと言えるだろう。
体験者が悩みを抱えていたことを書かずに、いきなりドライブの途中で池に立ち寄ったというシチュエーションで始まっていれば、かなり強烈な怪異譚となっていたかもしれない。
言わずもがなの内容を読者に見せてしまったために、変な勘ぐりを持たれてしまったところがあると言えるだろう。
類話も多い怪異のパターンであるが、それなりに読ませる文章であると思うので、プラス評価とさせていただいた(勿論最後の靴の一件が起こったことを怪異とみなすようフォローしている点も見逃せないところである)。