【+3】晶働

人間の邪念が生み出してしまったものの恐怖、そしてそれが一人歩きしてさらなる恐怖を生み出す。
ネタとしては抜群の内容であり、とにかくこの水晶そのものの邪悪な執拗さがこれでもかと言わんばかりに書かれており、それが生み出された経緯の凄まじさも相まって、非常に不気味な作品であると言えるだろう。
またこれだけの怪異をきっちりと書き、強い緊迫感を与えてくれる書きぶりも好印象である。
怪異の内容に見合った書き方が出来ているという印象である。
とにかく“人の歪んだ心が怪異を生み落とす”パターンの怪談としては一級品であると言って間違いないところである。
ただし非常に致命的な問題が一つだけある。
水晶を作り出した“お化け屋敷”のくだりであるが、この廃屋で起こったとされる内容に該当する実際の事件が見当たらないのである。
“一人息子が金属バットで一家全員を撲殺した後に、縊死体として発見された”という内容は非常にインパクトがあるが、衝撃度の強い事件であればあるほど注目度は高くなり、本当にあった事件であるかどうかの確認は容易となる。
結局この事件に該当あるいは類似した事件というのは発見できなかったわけで(金属バットで家族を殺したケースはあるが、一家全員を撲殺して犯人が縊死という事件はかなり検索をしたが引っ掛かってこなかった)、単なる噂先行のスポットであった可能性が高くなってしまった。
こういう重大事件が絡む話の場合、余程の自信がない限り、事件が特定できるような具体的な内容を事細かに書かない方が身のためだということである。
誤情報であれば信憑性が大きく傷つくことになるし、噂だけだったとしても結局迫力不足の感は否めない。
特にこの作品の場合、事件概要が記載されていなくとも怪異の本筋に全く影響がなかっただけに、なぜ確認もせず書いてしまったのかというところである。
“一家皆殺しの殺人事件”という書き方であれば、おそらく事件を特定することが出来ず、なおかつ信憑性がぐらつくこともなかっただけに、非常に残念至極である。