【−1】父の気配

冒頭から起こる怪異の雰囲気とタイトルとの間に大きな意識の隔たりが生じたために、最初からエピソードの展開に付いていけなかった。
妖しい気配に対する母親の対応を見ると、どうしてもその気配の正体が邪悪で禍々しい存在であるかのような印象を持ってしまうのである。
その強烈な恐れの印象が、タイトルにある“父親”と結びつかないのである。
例えば母親が非常な恐がりであり、夫といえども死んだものがそばにいることを嫌がっているということであればまだ納得のいく展開であるが、その記述もないために違和感を覚えるだけになってしまっている。
最後に書かれた怪異の示し方は、怪異となりうる弱い条件を書き立てて、最後にどうしても説明が付かない“譲れない事実”を書くという技巧を凝らしており、それなりに読ませる展開にしようという意図が出ている。
ただし怪異そのものが弱いために、インパクトのあるところまでは至っていないのが正直な感想である。
全体としては、やはり冒頭部分で引っ掛かりを覚えてしまい、また怪異そのものが微小なものであるために、水準レベルを下回る結果となってしまった。