【0】逢魔が刻

情景部分の描写などはそれなりに妖しい雰囲気を作り出すことに成功していると言えるのだが、肝心のあやかしの容姿についての記述が非常にぞんざいなものになっている。
座っている様子は何か凝った表記をしているが(ただしイメージ出来る姿は、ヤンキーの兄ちゃんのウンコ座り以外の何ものでもない)、首から下の人間部分の詳細はほとんどなく、どんな服装だったかすら分からない状況である。
そして何より“犬”と表記された顔がどれだけ人間離れしていたか、つまり目の錯覚や見間違いではなかったということを示す記述がないために、ある意味あやかしに関する情報がおざなりにされているという印象すらある。
要するに、周辺状況は緻密で繊細に描かれているが、肝心のあやかしは非常に適当にしか書かれていないのである。
あやかしの目撃談は、たとえそれが車上からの一瞬のものであったとしても、作品として上梓する限りは決してぞんざいな書き方でお茶を濁すわけにはいかないのである。
目撃したものは非常に希少であるとは思うのだが、如何せん、それを的確に表記し損なっている(さらに言えばあれだけ風景に言を尽くしているので、どうしてもギャップがあるとしか思えない)という悪印象からは免れ得ないと思う。
下手をすれば作り物っぽい印象すらあるわけである。
書き方のバランスの拙さで、希少な体験内容を殺してしまったと言えるだろう。