【+1】開けてくれ

非常に珍妙な怪異であり、妖怪と思しきあやかしの目撃談としての希少性は評価できると思う。
だがその肝であるべきあやかしの容姿に関する描写があまりにもお粗末なために、分かったような分からないような恐ろしく中途半端な印象なのである。
怪異体験の中には“異形”と呼ばれるものとの遭遇譚があるが、このような種類の話の場合、我々の想像力をはるかに越えるそれらの姿をいかに的確に描写できるかが、作品の成功に大きく関わってくることは間違いない。
それを思うと、この作品に登場するあやかしについての記述は情報不足の感は否めず、特にディテールにおけるイメージが不完全であるために、少々不満を覚えるところである。
このあたりで過不足ない書き方ができていれば、おそらく希少価値の高い怪異になっていたのではないかと推測する(現状の書き方でも怪異そのものの輪郭を掴むことは出来るが、強烈なインパクトを残すためには何かもう一つパーツが足りない、つまり異形を異形たらしめるだけの形容語が不足していると感じるのである)。
また書かれている文調そのものが説明一辺倒の書きぶりであり、どうしても感情の起伏に乏しい平板な印象を免れ得ないものであった点も、作品の勢いある流れを削ぐ結果になっていると言える。
特にあやかしの目撃でパニックになっている体験者の言動が“地の文”で書かれているために、体験者の恐怖感というものがあまり伝わってこない。
そして対照的な父親のとぼけたセリフも、直前の感情の高ぶりが弱いために、余韻ともならずにサラリと終わってしまった。
せっかくの目撃談のインパクトが、何となく流れてしまった感が強いのである。
ただしこのような書き手の不首尾があったとしても、なおこの怪異の希少性だけは評価してよいと言えるので、若干プラス評価とさせていただいた。