【−3】そんなところで何を

言葉の取捨選択によって状況の印象が一変してしまうことがあるが、この作品はまさにこの部分でのミスが命取りとなってしまっている。
最も致命的なのが、最後の行にある“そのまま姿を消してしまった”という文言である。
この言葉は、あやかしの消え方というよりも、生身の人間がスタスタと歩き去っていく場合にでも使用できるものである。
それまでのあやかしの行動がどうしても生身の人間っぽいために、この最後の一言によってさらに印象が悪くなってしまった。
要するに、この生け垣でモゾモゾもがいていたのは、やはり生身の人間の怪しい行動以外の何ものでもなかったという認識に、ほとんどの読み手は落ち着くことになってしまったと言えるだろう。
まさに、言葉によって全ての印象が悪い方向に変化してしまった顕著な一例である。
仮に最後の一文に、この怪しい人物があり得ない状況になった(別に消えるだけではなく、物理的にあり得ない行動にでるなど)と分かる言葉が置かれていたならば、少なくとも可もなく不可もなくというレベルにまではいけていたと思う。
怪異そのものの弱さ(やはり“よくある話”のレベル)に加えて、誤解を招くような言葉で締め括ったために、散々な状態になってしまったというところである。
言葉で勝負の世界であるからこそ、その部分に細心の注意を払わないようでは作品の質を維持することは難しいわけである。