【−1】俯いている?

残念ながら、タイトルを見ただけで“首なしの霊体”だろうという予測を付けてしまった。
果たしてその通りの展開だったために、この段階でマイナス評価を決めてしまった次第である。
書き手としては煙幕を張って核心を衝くという感覚でタイトルにしたのかもしれないが、“俯いている=首が見えない=首がない”という連想は、怪談に精通している人間であればほぼ予定調和的な流れであるだろう。
しかも、最初の数行で“頭がない”と書いてしまえば、ほとんど最後のオチをばらしているようなものである。
だが、この作品における怪異は実は書きようによっては非常に意外な展開になれる要素を持っており、また希少性の面でも評価できる部分がいくつかある。
あやかしの特異性を示すディテールとしての“ライター”の存在は、首のないことをオチにする場合の煙幕としても有効であると思うし、単に首がないだけの衝撃よりも奥深い何かを感じさせる品物という印象も強い。
俯いている目的がライターに火を付けているためと思わせることが可能であり(実際にこの霊体はそれを試みている節すら伺える)、ただ単に霊体がその場に佇んでいるだけよりも何か不気味なものを感じさせることが出来るだろう。
このライターの存在の前に“頭がない”という前振りをしてしまったために、完全にこのディテールはおまけ扱いに等しいものに成り下がってしまったとしか言いようがない。
そして“ワイシャツのタグ”も非常に有効なディテールであるが、これも“自転車に乗っていた時”という見えるか見えないかが微妙なタイミングである状況なので、どのようなシチュエーションで見えたのかを書いた方がよかったと思う。
書き手自身が“頭がない”という怪現象に取り憑かれてしまったかのように、これでもかと冒頭から暴走してしまった感がなきにしもあらずというのが、個人的な意見である。
持ち駒の打ち手を巧みにしていけば、かなり面白い怪異目撃譚となっていると思えてならない。
ネタ自体は小粒だが、怪異の特殊性を強調する決定的なディテールの提示がなされていると判断して、マイナス評価はやや押さえ気味ということである。