【0】寝言

幼い子供が通常は見えないであろうものに反応する様子を見て、大人が恐怖するというパターンの典型例である。
この作品の一番きついところは、子供一人だけではなく二人が同時に声を発しているところに尽きる。
書き手自身もこの部分が怪異の肝であることを十分意識しているのか、ここまで年齢を出さずにセリフで年齢差を見せた点は細かい技巧と思う反面、情報としてここまで引っ張る必要性があったのかという気もする。
多分書き手としてはここに力点を置いているが故の技巧だったのだと推測するのだが、個人的には、最初の段階で年齢を書いていても何ら支障がなかったと判断する。
そしてここに過度なまでに力を入れているのが明らかに分かるのが、タイトルの付け方。
子供二人がパッチリと目を開けて、しかもその見えない何かを視線で追い掛けているにもかかわらず、発した言葉が“寝言”というのは正直違和感を覚えるところである。
しかも作品の冒頭から“寝言”を伏線として強調しているから、さらに違和感に拍車が掛かる。
体験者(そしてそれを聞いた書き手)からすれば、目が開いているのだがそれは意識のない状態で起こっている、つまり“目の開いた状態で眠っている”という認識でいるのだと推測する。
ところがそれが伝わってこず、ただ視線が何かを追うという意識的行動ばかりが目立ってしまい、子供二人がその瞬間だけ覚醒して何かを見ているように読み手が勘違いしてしまったのである。
結局のところ、書き手が異常なまでに肝の部分に勢い込んでしまったために、本来ならばもっと張り巡らすべき伏線の置き忘れが生じてしまい(特に目を開いている部分は、規則的な呼吸などの描写で睡眠状態であることをもっと強調すべきだったのではないか)、ミスリードに至ったのではないかと推測する。
全体としてはアラが目立つわけだが、ただ怪異の肝の部分を外さなかったところは評価できるとして、トータルとしては可もなく不可もなくというところで落ち着かせていただいた。