【+2】小窓

怪異の内容の描写もさることながら、とにかく笑いのツボがドンピシャとしか言いようのない作品である。
散々「天狗が出るぞ」と脅しておきながら、いざその天狗が目の前に現れているところで「天狗などおらぬ」の爆弾発言は、まさしく吉本新喜劇のギャグパターンを彷彿させるぐらいのツボである。
しかもピシャリと小窓を閉めるのだから、あまりに出来過ぎていてコントじゃないかと思ったほどである。
偶然とは言え、この笑いの部分だけで十分プラス評価に値するだろう。
しかしこの笑いを中心にしながらも、怪異の描写を手抜きにはしていないのが、この書き手の実力ぶりである。
典型的な大天狗の容姿なのであるが、それをありきたりの比喩で書き飛ばすのではなく、顔のパーツをなぞるように書くことでディテールとリアルさを同時に獲得していると言えよう。
この細かな情報があるために、体験者が実際に見ていたと読み手が感じることが出来るのであり、こういうさりげない配慮こそが書き手の実力でありセンスであると思う。
また体験者が天狗のイメージがないにもかかわらず、自分の目撃したものを直観的に天狗と認識したかについての説明も、“分からないものは分からない”というある意味毅然とした姿勢で書き記しているところも、実話怪談の書き手として最もベストな態度であると言えるだろう。
小粒の怪異であるが、その怪異をどのように取り扱えばよいかをしっかりと見通して書いていることが文章の端々から読みとれたので、やや甘めであるがかなり高く評価させていただいた。
単なる怪談落語のネタに寄りかかるのではなく、怪異を引き立たせるための工夫があるからこそ、全てが活きてくるというお手本のような作品である。