【−2】送信中に

書かれてある言葉そのものは明快なのであるが、その状況をイメージすると、途端に非常に怪しいものになってしまった。
誰も立つことが出来ない壁際にもかかわらず、自分の携帯電話の画面には後ろから覗き込む複数の人間が映り込んでいたという内容である。
ここで大きな疑問が湧いてくるのである。
携帯電話の画面に複数の人間が、果たして覗き込んだ状態で映り込むことがあるのだろうか。
かなり後方にいる人がこちらを見ていたというシチュエーションであれば、複数の人が携帯電話の小さな画面に映っていても納得できるのだが、結局この最も重要な肝の部分で首を傾げざるを得ないような違和感を覚えてしまった。
さらに言えば、覗き込んでいるという表記から、そのあやかしが体験者のかなり間近にいると想像できるのであるが、その状況を“壁にもたれているから人が入り込めない”という一点張りで主張してしまったために、気配とか息遣いといったものがあったのかどうかの駄目押し的なディテールを得ることが出来なかった。
そのためにかなり接近しているあやかしというイメージなのだが、緊迫感とか恐怖感というものをほとんど感じることがなかった。
結局“あったること”だけの記録にとどまった内容であり、怪談としての妙味の片鱗を伺うこともなく終わってしまったように感じた。
これだけの小粒なネタで“あったること”だけを書いてきても、この大会で通用するはずもなく、やはりネタの取捨選択の段階で失敗しているという見解である。
短い“投げっぱなし”怪談も良いのだが、ただ短ければ珍重に値するというものではないということで。