【+1】僅かの隙間

隙間から全く別の“異界”が広がるという話は割とよくある話であるが、扉の隙間が動かなくなってこのような現象が起こるというのは初見であると思う。
しかもこの作品における怪異は、体験者とその母親が全く同じシチュエーションで遭遇しているために、非常に説得力がある内容になっている。
この点でも希少性はかなり高いものであると判断できるだろう。
特に重要なのは母親の怪異体験であり、母親が息子の間抜けな行動をリアルタイムで隙間から目撃しているという証言によって、連続的に起こった怪異が“同時間帯で別の場所で起こった出来事を垣間見た”という生々しい内容であることが示されているのである。
つまり、体験者が見た犯罪のにおいのする目撃内容は、幻覚でも何でもなくリアルな出来事だったということが、母親の証言から裏付けされることになる。
体験者がどこまで状況を飲み込んでいるのか判らないが、彼の見たものは“実際に起こった出来事”である可能性が非常に高いわけであり、単純に扉の隙間から見た“異界”の不思議さだけではなく、人の死にまつわるものを目撃してしまったという恐怖感をも含むものに、母親の証言を聞いた後に変容して然るべき内容なのである。
母親は我が子の間抜けぶりに笑い転げる、しかしその話を聞いて体験者自身は新たな思いに駆られるという構図を作り出すようにすれば(具体的にいえば、最後の体験者のコメントの後半部分“ああ、でもお袋が見たのは俺のアパートだったとして、だったら俺が見たのは……えぇっと何なんでしょう?”だけに削れば)、そこに恐怖感も含む余韻を強く出すことが出来たのではないかと思う。
結局、体験者が首を傾げて奇異に思うところで終わっているために、母親に笑い飛ばされてしまったという印象ばかりが残ってしまったよう見えるのである。
体験者の見たものに恐怖の付加価値を見出せるような余韻を作ることが出来れば、この怪異は深みのあるものになっただろうし、その可能性を十分秘めていると判断する。
プラス評価ではあるが、“思い返してゾクリ”というところまで引っ張り上げることが出来れば、佳作となっていたのではないだろうか。