【−2】ガシリ

怪異についての具象性に欠けるために、かなりのマイナス評価とさせていただいた。
最も致命的なのは、髪の毛のボリュームが判らないので、髪の毛の中で手を掴まれるというイメージが非常にしづらくなってしまった点である。
かなり髪の長い人だろうとは推測できるのであるが、果たしてその通りなのかを確認することが出来ないために、何かモヤモヤした気分のままで終わってしまったのが、正直な感想である。
「髪の毛の中から手が現れてくるのだから」という安易な調子で書き手は省略してしまったのかもしれないが、一言断り書きをするのとしないのとでは、読み手のスムーズなイメージが作れるかの部分では大きな差となって、作品に対する印象に直接的に跳ね返ってくるだろう。
特にこういう短い文章だからこそ一気呵成にイメージできないと、読み手からすれば、読み終えてみたものの置いてきぼりを食らわされたという気分ばかりが残ると思うのである
さらに言えばオノマトペだけの表記も、個人的には非常に厳しいものを感じる。
オノマトペは感覚的な部分で直観的に状況把握させることに長けている言葉であると思うのだが、ただこれだけで状況を語られると、特に怪異現象のように“常識的に通じない”部分を持つ現象の説明としては片手落ちである。
この作品で言えば、手先全体を包み込むように掴まれたのか、指先に近いところをつまむように掴まれたのかによって、手の大きさなどの情報が明確になって、怪異の状況がより鮮明になるわけである。
結局“ガシリ”だけでは、怪異が起こった瞬間の体験者の衝撃は理解できても、怪異の状況の説明としては希薄、下手をすれば“気のせいでは”という疑念すら感じさせるような弱さに繋がってしまうだろう(理想的な表記は、オノマトペインパクトを作り、その後で的確な描写を加えて補足するというパターンではないだろうか)。
結論としては、やはり文字を削って短い怪談に仕上げるのもいいが、そのために怪異そのものを曖昧然なものにさせてしまうのはいかがなものか、というところに落ち着いてしまう次第である。