【0】うしろ

怪異だけをコンパクトに切り出してしまったために、もっと広がりがありそうな怪異の内容がこぢんまりとしてしまった感が強い。
“九州”とか“人柱”とかいう非常にインパクトのある言葉が発せられており、掘り下げればもっと何かが出てくるのではないかと期待感があっただけに、それだけで終わってしまったのは何だか非常に残念という印象である。
具体的なエリア名が提示されているので、少なくともどこの地方で起こったのかということは情報としてあっても良かったのではないかと思う。
さらに細かいことを言えば、電車内での出来事であるが体験者と高校生以外の存在が全く感じられず、どの程度の混み具合だったのかの情報は、場の印象を決定付けるものとして必要だったのではないだろうか。
構成としては、体験者だけが聞いた空耳であることを最後に否定するような形で別の体験者が現れる展開されており、なかなか気の利いた流れであると言える。
ただ最終的には、怪異そのものが小粒な内容であるのに対して発せられた言葉が大仰なものであるという、まさにこのおかしなギャップがこの作品の魅力であり、同時に限界であったということになってしまう。
言葉のインパクトに引きずられて“何かあるのでは”と思わせるのであるが、怪異としてはそれ以上進展する気配もなく、凄いと感じた分だけ何か物足りなさを覚えて終わってしまうわけである。
“あったること”なのでこれ以上を求めることは無理なのであるが、とりあえず作品としては可もなく不可もなくということで妥当であると思う。
良くも悪くも“投げっぱなし”感の強い作品ということで落ち着くだろう。