【+2】おまじない

いわゆる正統なプロセスを経て得たものではないにせよ、呪術と呼びうる内容の怪異であり、その呪術が発動している様子が克明に記述されている点では非常に希少な内容であると思う。
少々細かく書きすぎてスラスラと読むには苦しい部分もあるが、それでも丁寧に“あったること”を記録しようとする姿勢が見られるので、かなり好印象という感じである。
特に記録として優れているのは、呪術を仕掛けた女性の方の視線から見た内容をなぞるように、仕掛けられた男性の方からの視点で書かれた実状を書いている点である。
この両者の証言が奇麗に一致していながら全く異なるものに見えていたというのが、この作品における怪異の肝であり、その部分がしっかりと書けているので、やはり説得力のある内容に仕上がっていると言えるだろう。
ただ気になったのは、体験者のキャラクター作りがなされている、前半部分の表記である。
修練も積まずにこのような呪術めいたことが出来る人物ということで設定されているのだが、過去にこの呪物を頼って起こった出来事の内容が非常に主観的で且つ貧弱であり、いかにも取って付けたような印象を免れないのである。
体験者としては過去にも頼ってきたから今回もという感覚なのだろうが、今回の出来事の顛末が強烈すぎるために、読み手からすればそのギャップがあまりにもあり過ぎて、前半部分のエピソードが完全に足手まといになってしまっているように見える。
むしろこの木片に頼ってきたことをサラリと触れるだけにとどめて、今回の怪異だけを単発的に起こった出来事としてクローズアップさせた方が却って迫力が出たのではないだろうか(やや呪術的な要素が薄まるのだが、怪異そのものの持つインパクトは褪せることはないだろう)。
様々な内容を伏線として散りばめ、それを最後に収斂させることに成功しているが、もっとシンプルな構成で怪異の部分に焦点を当てた方がもっと活きたのではないかという意見であり、その部分で若干辛目の評点ということにさせていただいた。