『ドアの鍵』

超−１

ドアの鍵が勝手に閉まってしまったという内容なのであるが、果たしてこれを怪異とするかは甚だ疑問、というよりもほとんど合理的な解釈が成り立つわけで、これを怪異とみなすこと自体がかなりの思い込みではないかという意見である。
古いアパートで、立て付けが悪いことは明らかであり、ドアの閉め方によっては勝手にドアの鍵が掛かってしまうこともあり得るだろう。この物理的な原因を否定しなければ、読み手は怪異現象とみなす以前にドアの不調であると考えることになる。最低限度の情報として、体験者がこのアパートに何年住んでいて初めての体験であったかとか、ドアの鍵がどのような形状のものか（ドアをきつく閉めた弾みで鍵がロックされるようなものかどうか）は書かれていなければ、やはり疑念が強くなるだろう。このあたりの周辺状況が書かれていないために、体験者の証言だけでは信憑性が薄いと感じるのである。ただ単にドアがロックされた経験１回だけでそれを怪異とみなす体験者の心情が、とにかく汲み取れないのである。さらに言えば、大家さんの素振りについても、体験者は何か秘密があるように思い込んでいるが、これも「言いがかりを付けられて面倒だ」という気持ちから出た態度である可能性も十分あり得る（というよりも、むしろこの方が理に適っているだろう）。
物理的な可能性が大きいと感じる現象を“超常現象”であると主張するためには、それなりの検証が必要である。それがたとえビリーバーばかりと思われる場であったとしても、しっかりと示さなければ、やはり胡散臭さの方が先立つのである。この作品はまさにその点で大きな問題が残された状態であり、常識的に考えても体験者の考えている内容の方が過剰で大袈裟すぎてついていけないという印象が強い。
また冒頭部分の記述がほとんど伏線にもならない無駄な情報ばかりであり、このあたりの文章構成でも、何か自意識過剰と言うべきレベルである。。はっきり言えば、怪異でも何でもない現象を勿体つけて怪異にこじつけようとしているという印象しか残らなかったわけである。怪異でないという判断であるので、厳しいが最低評価ということで。
【−６】