『前方の二人』

構成・展開の面で、一日の長があると言うべき作品である。
怪異については“山の怪談”では定番に近いであろう、分身体(ドッペルゲンガー)と思しき内容である。この種の話では、体験者自身が真正面からあやかしと出くわして、自分とそっくりの顔であることを確認したものまであるので、この作品の怪異よりも衝撃的な内容もかなりあると言える。書き手がそこまで意識したかは分からないが、ダラダラとハイキングコースや周辺の風景などを書かずに、わずかな前置きでいきなり怪異のスタートから書くという、思い切った構図にしている。これによって非常にテンポ良く怪異に引き込まれた。
さらに言うと、このあと体験者が前方の二人に追いつこうとしていく展開になるのだが、この単調な動きの中で、前方の二人の様子が分かっていく表記と、体験者がそれに従って不安や焦りを感じていく表記とが交互に並び、徐々におかしな状況に落とし込まれていく過程が丁寧に書かれている。この部分の情報の出し方が上手く、読み手を飽きさせないようにしている。既に前方の二人の正体があやかしであることも判然としているのだが、それでも体験者がどうなっていくのかが気になるし、またどうやってあやかしが正体を見せるのか注視してしまう。このあたりは状況描写と心理描写を上手く使って、読み手を引っ張っていると言えるだろう。
そして怪異のクライマックスは、かなり意表を衝く内容となっている。結局本物のドッペルゲンガーであるのかの正体は全く分からないまま、ただし顔面を削り取るような仕草の異様さに唖然となってしまった。怪談初心者だけではなく、かなり読み慣れている人間でも、この最後の部分は驚かされる内容だったと思う。むしろドッペルゲンガー的な結末を容易に予想出来た者ほど、完全に裏を掻かれた格好で、良い意味で肩を透かされてしまった感じである。もしこの意外な結末を活かすために、冒頭から計算して怪異の記述を動かしていたら、なかなかの腕だと思うところである。
全体的に情報に過不足なく、そして最後の怪異を活かした書きぶりは評価すべきだろう。強烈さは薄いが、なかなかの佳作であると思う。
【+3】