『会話』

前半部分の会話部分は、タイトルにしているだけに、それなりに書き手としても力を入れているのが分かるし、薄皮を剥がすように怪異の核心へ進めようとする展開も多少定番くさいがそこそこ成功していると言えるだろう。しかし、その部分の緻密さと比べると、後半の怪異の現象そのものの表記が非常に薄っぺらすぎるのである。
階段のところに薄ぼんやりとした影が見えたという怪異であるが、その現象そのものは実話である限り、少々小粒でもやむを得ないところである。だが、体験者が感じた、照明が暗くなるとか室温が下がったというのはあくまで主観の産物であると言えるだろう。体験者が気付いた時には影は既に階段付近にあったはずであり、それに気付いてから照明が暗く“感じ”たり、室温が下がったと“感じ”ても、それは霊体の出現とは無関係である。あくまで体験者の気付きがきっかけである。それ故に、この現象だけで怪異の信憑性を訴えるのは、違和感を感じるところである(体験者が霊と遭遇すると必然的にこのような感覚になるとか、この現象に加えて何か超常的現象があれば、まだ納得はいくのであるが)。
そして致命的なのは、体験者は影が消えるまでそこにいたのだが、この影が消えるのと会話していた二人の女性の動きとの関連性について全く触れることなく終わってしまっている点である。この影が二人の女性との絡みで現れたことが明白であるにもかかわらず、最後にはこの両者の関連性がないというのは展開において違和感のあることである。ある意味、怪異の本質部分で完全に見落としがあったと言わざるを得ない。二人が店が出ると同じタイミングで消えていればなおさら、たとえタイムラグがあったとしても、関連性があると考えるのであれば最後までその部分についての記述がないといけないだろう。
体験者が怪異を気付くまでの展開は問題ないが、それからの流れは怪異譚としてはほとんど体を成していないと言えるだろう。二人を追いかけて現れた霊体であるとみなせるから、怪異として興味深いものがあるのであって、その観点から描かれなければありきたりな話で終わってしまうわけである。それ故に、評点としては厳し目にさせていただいた。
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