『大人の対応』

いわゆる“見える”人の体験談の中でも、定番中の定番と言える内容である。それ故に“大人の対応”という変化球を投じても、特に何かが変わるというわけでもなく、結局のところありきたりという評価を覆すことは無理だったということになる。
この手の話の場合、読み手の大半の層である“見えない”人からすれば、興味の対象は「多くの人がいる中で、何故それが霊であると分かったのか」ということであり、この作品でもそれに対する解答やヒントはない。この部分がはっきりしないと、一般的に“見えない”人はその段階でつまずいてしまうのである。“見える”人からすれば、生身の人間と霊との識別はさほど困難を要するものではないかもしれないし、説明する方がまどろっこしいと思うのだが、軽く触れた方が親切だという意見である。
さらにこの作品で興味深いのは、霊が腕を掴み、体験者がそれを振り払う部分。これも何の注釈もないが、“見える”人だから実体があるかのように感じるのか、それとも今回に限ってのことなのか、そのあたりも知りたいところである。また「間に合ってますから」という言葉も実際に音声を伴って発したものか、心の中で霊に向かって伝えたものなのかも明らかにすべきだと思った。つまり“見える”人にとって当然の対応であっても、“見える”こと自体が一般的ではない以上、その部分を補足的に表現する言葉が欲しいのである。斜に構えた態度で霊をやり過ごすことに成功したが、読み手の疑問に答えずじまいでは何とも煮え切らない印象で終わってしまったと言わざるを得ない。
いちいち噛んで含めるように説明する必要もないとは思うが(実際、この作品のテンポは読むのには非常に心地よい)、特殊な能力である以上は簡単な注釈があった方がよかったと思う。ただし、この定番の話ではいくら頑張っても、怪異譚としての高評価を得ることはほとんど無理な話かもしれないが。
【−2】