『お坊さん』

偶然の産物かそうでないかの個人的な境目は、「二度あることは三度ある」や「三度目の正直」という諺があるように、三回続けて起これば怪異であると認識することにしている。その点で言えば、残念ながらこの作品のケースは“偶然”と言わねばならないことになる。ただ“三度目で怪異とみなす”基準もあくまで目安ということであり、書き方によっては二度目で打ち止めになっても、偶然で片付ける方が変だと思うものもある。
帰り道で二度も事故に遭遇するというのは極めて稀なことであり、確率的なことを言えば、やはり怪異に限りなく近いと感じるところである。少なくとも、体験者が今まで事故に巻き込まれたのがこの日だけだということを強調する必要があったと思う。この補足説明があるだけで、偶然とは言えない雰囲気は強まるはずである。そして二度の自動車事故の後、体験者がどうやって家に帰り着いたのかを示す必要があったと思う。例えば、この後自動車を怖がって電車や徒歩で帰ったのであれば絶対に書かなくてはならなかったと思うし、自動車でも同じタクシー会社ではなかったりしたら書けば良かっただろう。ある種の“方違え”を施したような記述があれば、体験者自身が三度目の事故を助言によって回避したと、読み手は受けとめてくれるだろう。こういう細かな仕掛けをすることで、あたかも三度目(あるいは最悪の事態)が起こるはずだったような印象を作り出す工夫が必要だと思うわけである。
また冒頭で、危険を予知してくれた人を怪しい人物に仕立て上げて書く部分があるが、これも定番過ぎるので、もっとさらっと書いて本題に入った方がよかったと思う。むしろ事故に遭遇してから連絡を取った後の方をもっとしっかりと書くことが、この種の話の信憑性にとっては有利に働くだろう。さすがにお経を上げてもらっただけで終わるというはずもなく、当然体験者は事故の顛末について語るだろうし、お坊さんも事の真相までは語らずとも、何となく示唆はするはずである。この部分を丁寧に書いた方が、後出しジャンケン的な謎解きにはなるかもしれないが、締まりはいいように思う。
二度だけの事故遭遇なので弱さはあるものの、事故内容が全く同じという点に偶然ではないものを感じるところが強い。プラス評価までは難しいが、マイナスとするまでには至らない内容であると判断したい。
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