『仮眠』

怪異そのものは正直平凡であり、そして小粒であると感じる。だが、丁寧に書くことを心掛ければ怪異は活きるし、信憑性も増すというお手本のような作品であるだろう。
登場人物に関する軽い紹介と簡単なシチュエーション説明が終わると、さっそく怪異が始まる。現象と登場人物のそれぞれの状況描写を交互に描くことによって緊迫感を増していく展開は、地味で平凡ではあるものの王道の安定感がある。そして一気に怪異そのものが姿を現し、体験者が驚き恐怖する場面もオーソドックスであるが、しっかりと怪異の様子が書かれているために、読み手には何が起こっているかが容易に把握できて、体験者の恐怖の瞬間とのタイムラグがなく怖がれるという印象である。最後の第三者の証言も素っ気ないが、的確に怪異の原因を示している点では要領がよいと言えるだろう。
これらの展開の中を精査すれば分かるが、書き手が何か特別な技巧を凝らして恐怖を演出しようとしている様子は皆無である。むしろそのような趣向を凝らしたものがないために、ストレートに怪異が読み手に伝わってくると言うべきだろう。必要な情報をしっかりと書き、読み手に分かるように書くだけで、怪異そのものが確実に恐怖や不思議をもたらしてくれるのである。それが“実話怪談”の“あったること”の本質であると言える。
この作品はそれに加えて、体験者が警察官であることが重要な要素となっている。こういう堅い職種の人の体験談というのはそれだけで希少であるし、また警察署の怪談自体もかなり珍しいものであると言える。平凡であるが故に、逆に怪異の信憑性を獲得できた怪異譚である。それなりにプラス評価とさせていただいた。
【+1】