『地下のレッスンスタジオ』

こういう地下にあるスタジオというのは霊の溜まり場になりやすいのか、怪異現象が起きたという話を結構聞く。だが、この作品での怪異はその中でもかなり強烈な部類に属する。最初は視界にチラチラと何かが映り込むという錯覚のようなところから始まるのだが、カーテンを鏡で隠してからの怪異の連続は相当なレベルであるだろう。しかもこの怪異を非常に緻密で丁寧に描写しており、リアルな印象が強い。一体の霊だけでもきついが、このような等間隔で並ばれたらインパクトは大である。上質の怪異譚であることは間違いないだろう。
ただ最後の締めくくり方が余りよくない印象である。体験者が激怒するのは致し方ないと思うのだが、最後までその怒りが解けないままで終わってしまったために、何か恐怖よりも怒りの方が勝ってしまったという印象が残ってしまった。恐怖と怒りは原初的な負の感情として同じベクトルを持っていると感じるので、怒りで締められると恐怖感が薄れてしまい、せっかくの怪異のインパクトが最後で息切れしてしまったように思うわけである。“二度と使いたくない”という一文だけを示せば、おそらく怪異の余韻が残ったままで終わることが出来たと推測する。
このスタジオがスポットとして有名であるという記述があるが、やはりもう少し情報が欲しいところであった。曰く因縁まで調べる必要はないとは思うが、実際に体験した人の噂話であるとかはあっても良かったのではないだろうか(しかしながら“一人の時にだけ出る”と“カーテンを引くとヤバい”というツボを押さえた情報があるので、不足を感じることは全くない。むしろそれだけ十分という意見もあるかもしれない)。
最後を怒りで締めたのは若干のマイナスポイントであるが、全体としては良くまとまった怪異譚であり、ネタそのものもインパクトがあると言える。評点は低めになるが、納得の一作であると思う。
【+2】