『孟宗竹』

作品全体の展開を見ると、非常に微妙なバランスで成り立っている怪異譚であると思う。まず、茶飲み友達を襲うという霊の目的が判然としない。息子夫婦にいびられて自殺したという原因が書かれており、本来はその怨みの矛先をそちらに向けるはずなのであるが、そのような記述が一切なく、いきなり体験者が襲われる場面が始まるのである。この展開が唐突であり、やはり霊は体験者も恨んでいたのではないかという推測だけが一人歩きしてしまう印象を持った。霊とは不条理であるとは重々承知しているが、明確な自殺の原因が書かれてすぐにそれとは別のところへ向けられた怪異は、何となく納得がいかないのである。むしろ体験者も知らず知らずのうちに自殺の原因を作っていたのではないかという、疑念の方が湧いてきた次第である。
もしかすると体験者も、この茶飲み友達が自殺した背景に自身が絡んでいることを薄々察しているのではないかと思うところがある。最後の一文にある“もし捕まっていたら命はなかった”というのは、ただの思い込みで発言したのではなく、恨みを買っていたことを認識していたが故の言葉ではなかったかと推測することも出来る。そう考えると、この飛躍的な論理は重みを増してくるだろう。だが残念なことに、それを匂わせるだけの記述がないのである。霊が体験者を襲ったことは事実であるが、それが“不条理”という言葉で丸め込むことが出来るレベルであるために、体験者が本当に恨みを買っていたかの決定的証拠もないということになっているのである。
事実だけを繋ぎ合わせてみるのと、その奇妙な繋がりを裏読みするのとで、大きく実状が変化する作品であると感じる。そういう多角的な解釈を読み手に与える展開もひと味変わっていて面白いと思うのであるが、だがその解釈のための重要なキーが明確に置かれていないので、何となく宙ぶらりんな印象で終わってしまうのである。評価とすれば、“あったること”はしっかりと提示されているので、可もなく不可もなくというところで落ち着かせていただいた。
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