『暗影』

まさしく“伝播怪談”の王道を行く作品である。人の死を予知し、その予知した人が今度は自らが死ぬという連鎖は最悪のパターンであり、そしてこの流れを知ってしまった人間が現在最終の体験者であり、何とも言えない重苦しい状況で話が締め括られている。しかも亡くなっているのは既に3名、完全に同じパターンで死を迎えており、どう考えても体験者がこの連鎖から逃れる術は見当たらない。とにかく読んでいる側も如何ともし難く、精神的なきつさを覚える。
かなり長い文であるが、丁寧に状況を押さえて書いており、読み飽きることはあまりなかった。ただ説明をしっかりとしようとするあまり、くどさが残った部分がある。例えば、最後のまとめと言える部分では、人物関係を再度提示して念押しをしているが、ここでもう一度おさらいをするのが果たして良かったのかどうかと思うところがあった。親切なのであるが、読む人によっては若干しつこさを覚えるかもしれないという意見である。また各人のエピソード部分でも情報を密に出そうとして、何となく説明描写や人物間のやりとりが煩雑になってしまっているきらいがある。無駄とまでは言わないが、もう少し言葉を削っても状況は把握できると思うので、そのあたりは推敲した方が良かったかもしれない。“伝播怪談”であるが故のパターンの繰り返しによる冗長さを、事細かな状況説明で変化を付けてカバーするのではなく、スピーディーな展開で解消した方がむしろ印象は良かったように思う。
この種の怪異としては疑念をはさむ余地のないほどの内容であり、特に体験者がこの連鎖に対して恐れおののく理由が明白であることが文章から伺えるところに、怪談の迫力があると言えるだろう。くどさは感じるものの、それを補って余りある怪異の内容である。高く評価したいと思う。
【+4】