『つきまとい』

この作品は“物証”の勝利と言っても間違いない。この紙幣ナンバーが動かぬ証拠と言わざるを得ないわけであり、それ以前の怪異がたとえ偶然や思い込みであったとしても、この京都から東京という遠距離を数日のうちに移動して元の持ち主に戻ってくる確率を考えると、たった一度の内容であっても、怪異と認めることの方が妥当であるだろう。それだけ強力な物証である。
捨てても戻ってくる物の怪異は時折見かけるが(去年の大会でも“レシート”があったはず)、紙幣というのは初見である。しかもこの紙幣は他の品物よりも明瞭に同じ物であるかを識別することが可能である。この部分を抜かりなく提示されれば、さすがに反論の余地はないと言ってもよい。さらに言えば、お焚きあげという方法で灰にしてしまったはずが戻ってくるという超常的なパターンもあり、この手の話の王道もしっかりと含まれていて評価できるだろう。
惜しむらくは、この怪現象の原因と思しき内容についての検証がしっかりとなされていない。体験者が“二股を掛けられていた”状況が解消されて以来、このシミの付いた紙幣を見ることがなくなったとしているが、おそらくこの考察は遠からず当たっているように思う(彼との初めての京都旅行で怪異が一気にレベルアップしているところもあり、因果の糸がほんのりと見えていると言えるだろう)。それ故に、二股の期間が半年と記述されていながら、この紙幣の怪異が続いた期間については完全には分からないような書き方になってしまっている。このように因果関係を匂わせるようなことを書くのであれば、やはりその根拠となるべき情報をきちんと残しておかなければならないだろう。もし期間が完全に一致していれば文句なしだと思うし、若干のズレがあったとしても強烈な示唆となって、読み手には明確にその意図は伝わるものと考える。それだけに一部の期間が曖昧になってしまったのは残念である。
全体としては、決定打が存在している以上、プラス評価。しかもこの手の話の怪異パターンを全て押さえている点も評価したい。若干冗長な気もするが、十分な作品であると思う。
【+3】