『名残』

全体の印象でいうと、“女郎屋”のイメージが強すぎて、却って怪異そのもののカラーが塗りかえられてしまっていると感じている。要するに、“女郎屋”の持つ“哀しい女の生涯”というイメージが強烈につきまとい、それが怪異の雰囲気を悪い意味で鮮明にしてしまったと思うわけである。
この作品における怪異は、身重(おそらく臨月)の霊体を目撃し、その後出産した赤子(これも霊体)をあやす同じ霊体を見るという、相当希少なものである。このような妊娠から出産という流れを持って出現する霊体は、肉親のケースを除いては記憶にない。言うならばこの怪異そのものが非常に希少であり、インパクトの大きいものであると思うのである。
ところがこの純粋に現象として珍しい怪異に対して、冒頭から“女郎屋”というイメージをぶつけてきたために、ウエット感の強い印象が絡んでくる。勿論薄幸な女性の霊体であるだろうと予測は出来るし、出産は現世で叶わなかった願いであることは明白である。だが“女郎屋”を最初から出して、“苦界に身を沈めた女性”という部分までをことさらに強調しなくても良かったように思う。この霊体が見せた一連の行動で、彼女がどのような境遇であったかを読み手は察することが出来るわけであり、むしろ“フィルターなし”で怪異そのものを玩味したかったという意見である。さらに言えば、霊体が最初に現れた時に“コート”姿であったことが“女郎屋”の持つイメージと若干異なっており、個人的にはやや強引という印象も受けた。
冒頭部分から固定的なイメージを持ってくる必要はなかったというのが結論である。むしろ種明かし的な色合いを持たせて一番最後にかつて“女郎屋”であった家屋での出来事だと明示した方が、この霊体に思いを馳せる余韻が残せたように感じる。怪異そのものがウエットな印象を生み出しており、最初から同じベクトルの印象を被せるように植え付けるのは勿体ないとも思う。
怪異の希少性を考え合わせてプラス評価とさせていただくが、書き方次第ではもっと秀逸な作品になっていたと思うので、高評価までは至らずということで。
【+2】