『視線』

一応“投げっぱなし怪談”の部類に入るのであるが、ただ書かれるべき内容を削ってまで作ったというレベルであり、情報量が圧倒的に足りないと言った方が正しいかもしれない。最低限度怪異が起こっていると確認は出来るが、しかし、その怪異そのものについての状況もほとんど書かれておらず、目撃談としても物足りない限りである。浮かんでいた顔がどのくらいの高さであり(高さによってはそれだけで十分怪異であると認めることも出来る)、またどんな表情をしていたか、“珍しい整った顔立ち”と判断した顔のパーツなど、怪異の中心である顔に関する情報をもっと書き連ねていかないと、ディテールが明瞭でない分だけリアリティーに欠けると言わざるを得ない。単純に“顔が浮かんでいる”という説明だけでは、やはりインパクトの弱さは否めないところである。
しかし逆に考えると、この目撃された顔についての詳細を書いたところで、実際には怪異そのものの弱さをカバーしきれるものではない推測する。要するに、正攻法で書いたとしても小粒でありきたりの作品程度しかなれないと思うのである。それ故に書き手はこのような削りに削った書き方で勝負したのではないだろうか。ただ、それでも怪異の弱さはどうすることも出来ないわけであり、結局情報の提示を最小に抑えることによって怪異の輪郭をぼやかして謎を増やしたが、代わりに薄ぼんやりとした怪異で終わってしまうことになってしまった。いずれにせよ、この内容の怪異を不特定多数の読み手に見せるだけの“怪談”にすること自体が無理があったと言わなければならない。書き方の創意工夫以前の問題として、公開に耐えうることの出来ない怪異のネタを出さないように選択することも、書き手のやるべき仕事であるだろう。最終的な評価としては、このレベルの怪異で投稿してきたこと自体が問題であるということである。怪異があれば何でも投稿するという姿勢も、いかがなものかと思う次第。
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