超−1

『ダイビング』

“幽体離脱”ネタである。しかも定番中の定番のレベルであり、ディテールを除けばほとんど既視感すら漂う展開である。 最初の金縛りであるが、これも幽体離脱の際に起こる現象であり、希少性はほとんどない。さらに言えば、かなり詳細な説明をおこなっているが…

『体育館』

この作品の評価を一番左右したのは、体験者が“警備員”という職業にある点である。体験時は非番であっただろうが、それでもやはりこの種の建物内で起こった怪異については“プロの目”と言うべきものが働いて然るべきだと思ってしまうわけである。要するに、専…

『海苔』

怪異の内容については、特に際立ったものはないと言える。あやかしを目撃して逃げ帰るが、後を追いかけてきたようにそれが家を覗き込んでおり、さらに家族もその存在を確認してしまうというパターンは、定番と言われても仕方がないだろう。あやかしの様子が…

『お土産』

怪異が起こっていることは確かだけれど、話の展開そのものに非常に大きな違和感を覚えた。一言でいってしまうと、怪異におかしな意味づけをしてしまって、無理やり押し込めてしまったという印象なのである。 カナダで起こった怪異であるが、体験者は、現れた…

『スポットライト』

夢うつつの状態の怪異というのはやはり判断の分かれるところであり、“あったること”そのままだけがきちんと書かれていれば可とする人もあれば、客観的物証が備わっていないと夢のレベルであると厳しく指摘する人もある。この作品もこの判断一つで大きく評価…

『スマイル』

怪異と確定出来るものは、最後に登場する“スマイルマーク”が描かれたことだけ。曇ってはいるものの、ガラス越しに人影が全く映らないということはあり得ないと判断出来るだろう。しかし体験者がしばらく会話していた老婆の存在は、非常に微妙なところである…

『やめてよ』

怪異は非常に些細なものである。ノブを捻らないと開かないドアが開いて閉まったという内容であるが、既にこの段階で水準を下回る内容と言わざるを得ない。この程度の怪異だけの紹介であれば、それが純然たる超常現象であると認められたとしても、弱いという…

『ダムの監視』

怪異のネタとしてはかなり怖い部類のものであると思う。女の子(“女”と混同しているがイメージは天と地ほどの差があることは言うまでもない)がダムの壁に張りついているのがいつも見えており、その霊がある時、作業員をダム湖に引きずり込むというとんでも…

『便所』

中国で起こった怪異であるが、戦後間もない頃であれば、便所は共同で家屋の外にあったというケースで起こった怪異もあるので、特殊な風習が引っ掛かってくるという印象もなかった。かなり昔の日本で起こった怪異であると言われても通用するのではないかと思…

『まよいが』

怪異を要約してしまうと、狐狸の類に化かされたという話になってしまう。しかしこの作品は、ディテールにその価値があると言っても過言ではない。 まず化かされている最中のディテールであるが、相手の男が鉄砲を非常に恐れているというくだりである。外へ追…

『戻らないと』

非常にリアルな臨死体験の証言である。状況から考えると、まだ完全に“あの世”にも移動していない、まだ病室で魂が体外へ抜け出た瞬間の段階である。しかしその場面を簡潔な言葉で綴っており、見たままがきちんと書かれていて、的確な内容であると言えるだろ…

『僕のクワガタ』

はっきり言うが、こういうタイプの話はまさしく【講評者殺し】。あさっての方角から来たような突拍子もないような怪異も色々あるが、ここまでとんでもなく理解不能に陥りそうな話も、そう滅多とない。書かれてある内容は現実離れもいいところなのであるが、…

『人香』

人の持つ超能力的なものにまつわる話は、それ自体は怪異でも何でもなく、いわゆる“奇譚”と呼ばれるジャンルに集約されるという意見である。この作品に出てくる“人の焼かれるニオイで性別などを当てる”能力そのものに超常現象的な印象はほとんどない。むしろ…

貌浪

お盆に漁をすることは古来よりの禁忌。亡者が戻ってきており、仲間にされてしまうという伝承が全国的に残されている。この作品は、この伝承が真実であることを裏付けていると言うしかない内容である。それ故に、かなり希少な内容である。 怪異そのものである…

『踏切』

“異界”ネタの中でも、かなり毛色の違う印象を持つ内容である。やはり“西日の差す荒野”のイメージの圧倒的な存在感は相当なものであり、この存在を見事に描写しきったところに、この作品の成功はあると言ってもおかしくないだろう。それほどまでに、踏切を越…

『セントラルロード怪談』

目撃場所が具体的に書かれているので非常に興味を持って読んだが、しかし、妖怪目撃談としては最低レベルの内容と言うしかなかった。 最初に“一反木綿”という既存の妖怪キャラクター名を出しておきながら、その後の証言内容が二転三転、最終的にはあの“一反…

『飢えていた者』

怪異の内容はかなりきついものを感じる。はっきりと見える霊が七体、しかもそれらが食料を漁って食らい尽くすのであるから、その光景は相当えげつないものになると想像出来るはずである。ところが、作品を読むと全然迫力がないし、恐怖感という点でも全く響…

『手鏡』

“死期を迎えた人が自らの手を手鏡のようにして見つめる”習俗は、聞いた記憶もないのだが、あってもおかしくないような気分にさせられる。やはりそこに死にゆく己自身と対峙する瞬間という、何かしら心揺さぶられる感情の波を認めることが出来るからである。…

『湖畔の宿』

旅先の怪異としては定番と言えるものであり、部屋に現れた霊体についてはかなり詳細が書かれていてリアリティーに溢れていると思うが、いかんせん、あまりにも定番な出現で興味を惹くレベルではない。しっかりと書かれているので決して悪い印象にはならない…

『おすそわけ』

怪異としては、ジャーのお釜が、炊きたての御飯の入った状態で玄関に突如出現したという内容であり、それなりの希少性があるものである。しかしこの怪異を活かすには、やはり細かな説明で長々と書くのではなく、的確な状況説明で簡潔にまとめてしまうのが正…

『井戸端会議』

この作品も、阪神大震災という未曾有の災害と怪異とを安易に繋げてしまったために、非常につまらない終わり方になってしまったと言える。地震直前に怪異のクライマックスを迎えたために、何らかの関連性を覚えて、それを持ち出したくなるのは心情的に理解出…

『誰がやった』

8個の時計の全てが一気に狂った時間を指すという怪異は希少であり、それなりのインパクトはあると言えるだろう。しかし、この作品はその怪異の本質を活かすことをせず、むしろ非常につまらない印象にまで押し下げてしまっている。はっきり言ってしまうと、…

『借りてきた本』

怪異譚の中で“髪の毛”というアイテムは意外と重要な役目を負っていることが多い。例えば室内であり得ない長さの髪の毛を発見することから強烈な怪異が始まる話もあるほどだし、特に女性の髪の毛は怪異の予兆に近いものを感じる。 この作品では、はっきり言え…

『鼻歌』

この作品における恐怖の中枢は、中年女性の霊体が引き起こす怪異ではないと言える。鼻歌のような他愛のないものだけではなく、実際に首を絞められて危害を加えられている人間もいるわけであり、霊障は相当きついものがあるのは間違いない。しかしこの作品で…

『ちょっと一服』

龍の目撃談である。これ自体がいかに希少な体験であるのかは言うまでもないのであるが、この作品ではその最も肝心な部分が全て吹き飛んでしまっているために、全く残念な話になっている。 いわゆるUMAと呼ばれる生命体を目撃した場合に「○○を見た!」とい…

『だまし絵』

まさに怪異と錯覚の紙一重という印象である。この手の幻覚が伴ってくる怪異は、間違いなく「いかにリアリティーを獲得するか」にある。それに失敗してしまえば、いくら真実だと主張しても、読み手は納得しないだろう。とにかく書き手にとっては相当ハードル…

『逆三角形』

テンポよく流れるように書かれている作品であるが、怪異を検証していくと、かなりのアラが目立つ。 最初の目撃で、財布を盗もうとしている相手の“筋肉質の体型”が体験者の目に飛び込んできたとあるが、それ以外の容姿についての情報がほとんど書かれていない…

『二月の出来事』

怪異の現象としては、掛け軸から何人もの霊体が現れて天井をグルグルと回るというもの。おそらく心霊現象としては、“霊道”が開いたと言うべきものではないかと推測する。霊道と一括りにして言っても、実際には常時開いているケースもあれば、特定の日時のみ…

『晩秋の湖』

怪異の希少性から言っても抜群であるし、とにかくその初見のあやかしを的確な言葉で言い尽くしているところが素晴らしい。パーフェクトとは言わないが、これであやかしの容姿や行動について分かりづらいと言うなら、読解力に問題があると突っ込まれても致し…

『肝試し』

UMAのオウルマンやモスマンを彷彿とさせる怪異なのかと思いきや、高尾山の名前を挙げてきて敢えて“天狗”を想起させようとしたのは、書き手の工夫としては良かったかもしれない。ただし“天狗”の怪異の場合、羽音を立てたり、その姿を現すようなことはしな…