超−1

『「五」から始まる』

怪異の希少性と連鎖の強烈さ、さらには因果関係の明瞭さを考え合わせると、相当なレベルの内容であると判断したい。どのような因果によって「五」という数字が選ばれたのかは判らないが、ただその数を忠実に守って展開される子供達の死の連鎖は、かなり大ネ…

『牛鶏鼠』

冒頭と末尾の部分を読むと、おそらく書き手は『学校の怪談』よろしく畜産高校で起きた怪異を列挙して、一つのまとまった怪異譚を組み上げようとしたと考える。しかし、表記の部分で舌足らずと思われる部分が多いため、非常に中途半端な内容になってしまって…

『足だけ』

怪異としては非常に小粒であり、友人の死と重ね合わせることで辛うじて他者に読ませるだけの内容になっているという印象である。仮に足の出現だけであれば、いくら微に入り細に入る表現であったとしても、一般に公開するレベルではなかったと思う。 かなり細…

著者別短評の5

No.21 3月下旬に7作を一気に投稿。この書き手の一番の問題点は、怪異を客観的なものとして読み手に納得させるだけの内容が足りないということである。単なる情報不足であればまだしも、客観的に“あったること”と認める材料がない代わりに、どう考えて…

著者別短評の4

No.15 2月のみに4作品投稿。全作品を通して見ると、実話を書く上での基本的な部分で問題点があるのが分かる。この怪異が現実に起きたものであることを裏付ける必須条件である“リアリティー”の部分で非常に弱さを感じるのである。具体的に言えば、怪異…

著者別短評の3

No.10 大会期間を通じて21作を投稿。怪異の描写と登場人物の描写とは上手くミックスされ、しっかりとした目撃体験談を構成できているという印象である。特に登場人物の心理描写についてはかなり書き慣れている感があり、これが怪異の内容を際立たせて…

著者別短評の2

No.5 終了間際に11作品を投稿。作品の書き方に変化を付けており、また個人体験からきっちりとした取材まで手広くこなしている。それなりに創意工夫がなされていると感じるところである。しかし実話怪談の目線から見ると、ほとんど作品に共通する問題が…

著者別短評の1

今年はやります、短評。ルールとしては3作以上投稿された方を対象に(これは第1回【超−1】の際に、応募規定として3作以上投稿者のみエントリー有効とされていた名残である。初回のことを知らない人も増えているので、念のための追記)。一応エントリーNo…

公式エントリーブログ講評に関する覚え書き

とりあえずブログ内での講評は完了したわけだが、今年はこれで終わるわけにはいかない。公式エントリーブログ内で評点を出さなければ、参加したことにならないのである。ということで、これから182編の作品を再講評することにする。 ここで一応念のために…

『観察』

結論から言うと、傑作になり損なった怪作。あらゆる負の感情を巻き込んだ内容の怪異譚であるのだが、正直書き手が持て余してしまったという印象である。 怪異は大きく二つの階層に分かれる。体験者が目撃している隣家の家族のあやかしの存在が一つ。家庭内暴…

『暑い夜に』

昔の思い出と共に甦る不思議譚という印象で、なかなかいい感じに作られていると思った。体験者のその当時の記憶を書き手がしっかりと再構成しており、読み手も安心して追体験することが出来る内容であるだろう。 ただし客観的な怪異の記録としては、この体験…

『視線』

一応“投げっぱなし怪談”の部類に入るのであるが、ただ書かれるべき内容を削ってまで作ったというレベルであり、情報量が圧倒的に足りないと言った方が正しいかもしれない。最低限度怪異が起こっていると確認は出来るが、しかし、その怪異そのものについての…

『月夜』

非常に格調高い文章によって綴られているのであるが、残念ながら怪異の本質を鑑みると、この文調が決して成功しているとは思えない。むしろ怪異の内容に比べると上品すぎて、しっくりこないという意見である。 怪異はまさにインパクト勝負の内容であり、迫っ…

『名残』

全体の印象でいうと、“女郎屋”のイメージが強すぎて、却って怪異そのもののカラーが塗りかえられてしまっていると感じている。要するに、“女郎屋”の持つ“哀しい女の生涯”というイメージが強烈につきまとい、それが怪異の雰囲気を悪い意味で鮮明にしてしまっ…

『訪問者』

とにかく全ての内容が良い意味で要領を得ない話であり、実際にどこからどこまでが怪異であるのかすらもうひとつ分からないと思ってしまうような作品である。特に秀逸なのは、体験者自身が自分の今体験している内容がどんどん理解不能になっていくのを自覚し…

『つきまとい』

この作品は“物証”の勝利と言っても間違いない。この紙幣ナンバーが動かぬ証拠と言わざるを得ないわけであり、それ以前の怪異がたとえ偶然や思い込みであったとしても、この京都から東京という遠距離を数日のうちに移動して元の持ち主に戻ってくる確率を考え…

『病床の看護師』

結論から言ってしまうと、ある一定の方向へ怪異を誘導しようとする意図が完全に見えてしまっていて、御都合主義がまかり通っている作品ということになる。もっと具体的に言えば、全ての面において明確な理由付けがなく、予定調和的に怪異を認定し、そして自…

『暗影』

まさしく“伝播怪談”の王道を行く作品である。人の死を予知し、その予知した人が今度は自らが死ぬという連鎖は最悪のパターンであり、そしてこの流れを知ってしまった人間が現在最終の体験者であり、何とも言えない重苦しい状況で話が締め括られている。しか…

『孟宗竹』

作品全体の展開を見ると、非常に微妙なバランスで成り立っている怪異譚であると思う。まず、茶飲み友達を襲うという霊の目的が判然としない。息子夫婦にいびられて自殺したという原因が書かれており、本来はその怨みの矛先をそちらに向けるはずなのであるが…

『ラッシュアワー』

冒頭から男のいけ好かない様子をこれでもかと書くことによって、赤ん坊の霊体と男との接点を誘導させようという意識が働いている。つまり、赤ん坊の霊体が“水子”であり、この不躾な男が父親であるかのような展開を、読み手に想起させる書きぶりである。赤ん…

『地下のレッスンスタジオ』

こういう地下にあるスタジオというのは霊の溜まり場になりやすいのか、怪異現象が起きたという話を結構聞く。だが、この作品での怪異はその中でもかなり強烈な部類に属する。最初は視界にチラチラと何かが映り込むという錯覚のようなところから始まるのだが…

『可愛いお願い』

この作品の問題点は、既に他の講評でも出尽くされているように、この少女が本当にあやかしであると証明するために、体験者の認知のスピードと、両者の距離を明らかにすべきというところに集約されてしまう。 まずこの怪異があった時の人の混み具合を明示し、…

『酔煙』

かなり珍しいあやかし目撃譚である。煙の状態でありながら明確な意志を持ち、また鳥を金縛り状態にしてみせたりする能力も持ち合わせている。最後に鳥居をくぐって社の方へ飛んでいったとあるので、おそらく神様かあるいはその眷属だったのではないかと推測…

『川姫様』

書き方で全てをぶち壊してしまった作品である。 まず冒頭のwikipediaの説明記述部分であるが、これを持ってきた目的がよく分からない。川姫というメジャーではない妖怪の遭遇譚であることから、こういう権威的なものにすがろうとしたのかもしれないが、この…

『小さな石碑』

怪異自体は“肝試し”ネタの定番であるが、かなりきつい内容になっていると言える。しかしこの作品の場合、怪談としての面白味という点ではかなり劣るという意見である。 この作品を読んでみると、客観的“怪談話”と主観的“体験談”との相違というものが明らかに…

『仮眠』

怪異そのものは正直平凡であり、そして小粒であると感じる。だが、丁寧に書くことを心掛ければ怪異は活きるし、信憑性も増すというお手本のような作品であるだろう。 登場人物に関する軽い紹介と簡単なシチュエーション説明が終わると、さっそく怪異が始まる…

『四十九日』

人は四十九日の法要が終わるまでは、生前と同じような状況で時が来るのを待っているという。それ故に、この日が来るまでは、このような死者が自宅などで何らかの現象を起こしてしまうという話はよくある。題材としては平凡であるが、ただ起こっている怪異そ…

『お坊さん』

偶然の産物かそうでないかの個人的な境目は、「二度あることは三度ある」や「三度目の正直」という諺があるように、三回続けて起これば怪異であると認識することにしている。その点で言えば、残念ながらこの作品のケースは“偶然”と言わねばならないことにな…

『忘れられない』

体験者本人の記憶だけが欠損している状態の怪異を表した作品であるが、この種の話の場合、ポイントになるのはその消えてしまった記憶の内容が本当の怪異であるかが客観的に立証できるかである。子供の頃からつるんでいたグループであれば、自分一人だけが覚…

『黒い獣』

何かしら非常に曖昧な印象だけが残っただけで、結局怪異そのものについても要領を得ないところばかりが目立った。 まず、捕らえどころのなさは、体験者の当時の年齢がはっきりしないところから始まっている。分別のつかない年齢の頃の体験談ということであれ…