2010-01-01から1年間の記事一覧

【−6】家族

最後の一文の存在で、書き手がこの作品をどのように位置付け、読み手に対してどのような意図を提示しようとしているのかという点において、問題外という判断を下した。 はっきり言ってしまえば、この作品に対する書き手の思い入れというものは全くなく、読み…

【−2】生兵法

もし仮に創作も含めた怪談も可であれば、この作品に対する評価は非常に高いものになっていただろう。 狐憑きと思しき患者を前にして覚えたての呪法を施したら、案の定その患者が猛烈に反応したという内容であるから、まさに思う壺に近い結果を導き出した展開…

【−2】冷たい手

起こっている怪異そのものは不思議なものであり、非常に感覚的な体験であるが、言を費やして描写説明をしているので信憑性の高い内容になっていると思う。 また怪異に遭遇した体験者の心理もしっかりと書かれており、その時の緊迫した状況というものが見て取…

【−3】今もあるんです

起こっている怪異はいくつかあるのだが、結局客観的な物証となりうるものほど適当にあしらわれた感じで書かれており、書き手自身がしっかりとした怪に対するスタンスを持っていないのではないかと感じた。 特に最後の最後で“数珠が弾けた”といかにも大した怪…

【−5】夢、あるいは……

体験者が、果たして本当にこのような体験をしたのかという、非常に根本的な部分から疑問を感じてしまった。 体験者自身が駅で遭遇した女に関するコメント自体が、非常に曖昧で要領を得ないものであるという印象が強いのである。 遭遇した女の話している内容…

【+1】雪桜

“動物ネタ”定番の、お涙頂戴の文章とはややおもむきが異なるという印象を持った。 全体的に感情をダイレクトに表現する言葉を抑え、体験者と犬の交流も描写中心でまとめ上げたために、ウエットではあるもののべたついた印象は皆無であり、いわゆる嫌味のない…

【+2】最後の封印

大ネタになり損なったという感が非常に強い作品である。 怪異の内容については申し分なく、とりわけ興味を覚えたのは、間違って本物のお札を剥がしたために封印が解かれてあやかしが現れたという部分。 まさに小説や映画を彷彿とさせる展開であり、ここらあ…

【0】なげき

怪異としては小粒、それを上手くまとめたという感じの作品であり、良くも悪くも標準的なレベルの作品であると言ってしまって終わりそうである。 おそらく書き手としては、『なげき』というタイトルから察するに、現代社会の殺伐とした空気をこの怪談の中で訴…

【0】生ソーセージ

廃墟探検で怪異に見舞われる話の中でも、“一緒に行ったはずの者が全く違う記憶しか残していなかった”という怪異のパターンは、よくある話のレベルになりつつある。 この作品の場合も、話者は実際に廃墟に入ったとしながらも、もう一方は入っていないと言う。…

【0】待合室の夜

結論から言ってしまうと、怪異の内容と文章の長さが合っていない、つまり怪異と関係ない部分の記述が冗長すぎてかなりだらけた印象を持ってしまった。 特に怪異が起こるまでの、体験者の母親に対する怒りのぶつけ方がしつこすぎる。 例えばこの怒りが怪異の…

【+5】闇線歴

“タコ部屋”という言葉から北海道の裏面史を思い出し、手がかりとなる土地関連の表記を洗い出すことで、おおよその場所を確認できた。 完全に合致する場所はなかったが、“観光地のダム”はS湖、“十一町村結び、昭和7年に全線開通の路線”はH線ではないかと推…

【+3】生き甲斐

怪異としては、いわゆる“霊が死の予告に来る”という病院ネタの定番であり、“前に死んだ者が予告をしに来る約束”や“確実に3日前に来る”という明確な特殊性は認められるが、さほど珍しいものではないと言えるだろう。 “あったること”だけを淡々と記録するとい…

【−1】パラパラ

怪異の内容から考えると、本来は“投げっぱなし”怪談とすべきだったものを、変な引っ張り方をして却って胡散臭いものにしてしまったように思う。 おそらく体験者自身がスキャン前の現物を見ることはないので敢えてその部分はパスするとしても、その映し出され…

【+1】擬態

最初に突っ込んでおくが、タイトルは明らかに誤り、怪異の内容からすれば『擬声』あるいは『擬音』とするべきだろう(“擬態”はあるものの形状を真似ることであり、決して鳴き声を真似する場合には使わない)。 展開であるが、体験者が“耳鳴り”についてかなり…

【+3】コロコロ

幼い子どもが体験した怪異であるが、実に希少でなおかつほのぼのとした印象が強く、まさに“現代民話”と言ってもあながちおかしくないような話である。 出てきたものが“直径50cm”の丸い形をした品物ばかり、それがコロコロと目の前を通り過ぎるだけの怪異で…

【−5】まさか

全く関連性のないものを無理やり繋ぎ合わせようとして失敗した作品であると言える。 体験者の身の上に起こった“体調不良”が、果たして取引先の社長の自殺とどう関係あるのかの決定的な根拠が全くと言っていいほど提示されていない。 ほとんど同時と言ってい…

【0】抽斗より

良い意味でも悪い意味でも、安定感のある怪異の内容である。 全体の構成や文章の長さも怪異のレベルに合っており、怪異の本質を損なうことなくしっかりと書かれていると言えるだろう。 抽斗から腕が伸びて何かをやっているという展開は、怪談としてはある意…

【+4】真意

強烈な怪異譚である。 特にそのおぞましいまでの恐怖は、会うごとに変貌を遂げる友人の霊体の表情である。 書き手は最初からその変化を強調させるために、最初に自らの死を伝えに来た霊体の描写の部分からしっかりとその表情や雰囲気を書き留めている。 それ…

【−3】最後の親孝行

一読した直後の正直な感想は、“新興宗教団体の機関誌に掲載された信者の体験記”というところである。 真摯に書かれているがとにかく冗長であり、またまばゆいばかりに輝く“思いやり”の精神が溢れており、心が洗われるがかなりヘビーな気分になってしまうとい…

【+1】いつも来るとは限らない

作品全体をほんわかとした雰囲気が包み込んでいる印象が残った作品である。 恐怖が一瞬走ったのは、最初に現れた女のあやかしの場面だけ。 それもどちらかと言うと軽く流す感じで引っ張らず、メインである次の怪異へとうまく繋いでいく。 女のあやかしの描写…

【0】裏路地

文章は上手く、読ませるツボをよく心得ているように思うし、臨場感は出ているように感じる。 しかし、あまりにも“読ませる”傾向が強いために、“実話”らしさを損なっている部分が大きいようにも感じるのである。 例えば書き方が完全に“体験者目線”からのもの…

【0】返して

よく考えれば、今財布の中に入っている札や硬貨は、まず間違いなく多くの人の手を経てここに集まってきたものであり、その流通している間に一体どれだけの記憶を染み込ませているか想像がつかないほどである。 もしかすると、この作品に出てくるような怪異が…

【−3】鏡の中の顔

100%の確率であやかしが第三者にも見えるという怪異は、まさにとんでもないの一言であり、これ以上希少なレベルはないものと言えるだろう。 それだけ凄い怪異を擁した話でありながら、結局“怪談”足り得ないという印象だけが残った。 要するに怪異を扱っ…

【−1】重なってスマン

のほほんとした雰囲気の中で怪異が展開されており、それはそれでなかなか面白味のある印象である。 しかし“実話怪談”という記録としてみた場合、非常に重大な見落としがある。 結論から言ってしまうと、この一連の怪異はもしかすると“話者の夢オチ”ではない…

【0】厠

怪異としてはなかなか希少な物の部類に入る内容であると思う。 便所に潜む物の怪というか、とにかくそういうものを好むあやかしであろうと推測される。 ただ書き方の部分で、このけったいな存在をどのように捌くかを迷った挙げ句、中途半端なものにしてしま…

【0】ストンと

あやかし目撃談としては、取りたてて注目するところもなければ、これといって大きな問題点もない。 無難な感じにまとめられた作品という印象である。 あやかしそのものの描写であるが、辛うじて説明で判る程度ということで、全くイメージできないレベルでも…

【0】あしあ(お)と

体験者の怪異に対する心理描写については、非常にきめ細やかに書かれており、追体験できるレベルであると言っていいと思う。 おそらく怪異そのものの弱さをカバーするために、意識的に積み上げていったものと推測する。 構成についても同様の意見であり、と…

【+1】導かれ、選ばれて

心霊スポットへ安易に行き、そこで霊と遭遇して取り憑かれてしまうという展開は、さほど珍しいものではない(タイトルではいかにも“予定調和的”というか因縁めいたものを感じさせるものにしているが、これは“思い込み”に近いと思う。真相は、あくまでも“偶然…

【−4】思いたくはないけれど

結論から言ってしまうと、問題の絵が怪異を引き起こしたという判断は全く出来ないということである。 この絵が誰から送られたものかも判らない、しかも絵の裏には髪の毛の束と、傘連判に似た呪符と思しきものが入っており、間違いなく何らかの呪いを発動させ…

【+1】刈部くんの食事

タイトルと最初の“人前で食事しない”ということから、おおよその見当をつけて読んでいたが、それでも口の中に潜むあやかしの存在は衝撃的であった(個人的には人面疽みたいなものを想像していたわけだが)。 話の展開自体は非常にオーソドックスなものを感じ…